サラリーマンが会社設立をするメリットや副業について
目次
副業で会社設立するタイミングとは?
副業で会社設立をお考えの方は、いったん立ち止まり、会社設立すべきタイミングかどうかを考えてみましょう。副業が次に挙げるような状況になっていれば、会社設立しても良いタイミングと判断できます。
副業の所得が500万~700万円を超えたタイミング
税務署に届出をしているか否かに関わらず、副業で所得が出た場合には、確定申告をしなければなりません。その点において、届出をしていない方でも、実質的には個人事業主と同様です。
個人事業主における所得税の税制は累進課税。所得が多ければ多いほど税率が高くなり、最高税率で所得の45%となります。
一方で会社の法人税の税率は最高で23.2%(開始事業年度が平成31年4月1日以後の普通法人の場合)。所得が低い間は個人事業主の所得税率は低めですが、所得が高くなっていくと、途中から会社の法人税率を超えてしまいます。そのため、所得が「一定レベル」まで達しているならば、個人事業主よりも会社にしたほうが税金面で有利になるとされています。
分岐点となる「一定レベル」の所得金額は500~700万円。副業で安定的に500~700万円以上の所得を得ている方は、そろそろ会社形態への変更(法人成り)を検討してみたほうが良いかもしれません。
会社と聞くと、複数の従業員がオフィスで働いている景色をイメージしますが、たとえマイクロ法人(社長の一人会社)であっても、会社である以上は上記の法人税率が適用されます。
不動産収入と給与所得を合わせて700万円以上になったタイミング
副業として不動産投資(物件を購入して家賃収入を得るビジネス)を行っているサラリーマンの方の場合、不動産収入と給与所得とを合わせて約700万円を超えたタイミングで会社設立をすると、税制上有利になると言われています。
不動産投資における会社設立とは、大家さんとして個人で物件を管理するのではなく、不動産管理会社を設立して物件を管理するということです。
副業で会社設立するメリット
上記のような条件を満たした場合、個人として副業を続けるよりも、会社を設立して同じ副業を始めたほうが有利になる可能性があります。
経費項目が増えるので節税になる
個人であろうが会社であろうが、事業から利益が出た場合には、税務署へ確定申告をしなければなりませんが、個人に比べると会社のほうが経費項目は多くなります。経費項目が多くなれば、その分だけ利益を圧縮することができるため、節税効果を得やすくなります。
例えば、消耗品費や電気料金、通信費、家賃などは個人でも会社でも同様に経費とすることができますが、自分への給与(役員報酬)・賞与・退職金、社員旅行に要した費用などは、会社でなければ経費に計上することができません。
法人生命保険料を損金に算入できる
法人生命保険料を損金に算入できるという理由で、かつては多くの経営者が法人生命保険を節税対策として利用していました。解約返戻金で支払い済みの料金から一定額が戻る、という仕組みを併用した節税手法です。
この手法が広く行われるようになったことから、国税庁は制度改正に着手。2019年、保険業界に向けて「税制改正の通達」を出し、法人生命保険の損金取扱いに関する新たなルールが設定しました。
ルールが変更された結果、法人生命保険の節税効果は以前より小さくなった(解約返戻率の高い保険ほど損金算入比率が小さくなった)ものの、それでもなお会社ならではの節税効果を得られることは確かです。
決算月(事業年度)を自由に決められる
個人の副業として事業を行っている場合、基本的に事業年度は1月から12月までとなり、翌年3月15日までに当該事業年度の確定申告を行う決まりとなっています。年明けから3月15日までという期間は、多くの事業者(会社)にとって決算に向けた繁忙期。会社と取引のある個人であれば一緒に忙しくなる時期であり、その時期に煩雑な確定申告の作業を並行することは非常に大変です。
一方で会社形態の場合、決算月(事業年度)を自由に決められるため、この繁忙期を避ける形で決算月を設定すれば、余裕を持って確定申告の作業を進められるようになります。
社会的信用度が高くなる
一般に、個人で事業を行っている事業者よりも会社としての事業者のほうが、社会的信用度は高い傾向があります。社会的信用度が高くなれば、それだけ取引先の幅を広げられる可能性も高まるため、事業がより有利に展開していく可能性があるでしょう。
銀行融資を受ける際にも印象が良くなったり、より優秀な人材を雇用しやすくなったりなど、社会的信用度の向上は様々なメリットをもたらします。
副業で会社設立するデメリット
会社設立にはメリットがある一方でデメリットもあるため、両者をよく理解した上で会社設立を検討していくようにしましょう。
会社設立のための費用がかかる
個人事業主の開業は税務署に届出を行うだけなので、手続き自体には費用がかかりません。一方で会社の開業には、様々な手続きに際して費用がかかります。会社設立に関する費用については後述しますが、その金額は決して安くありません。
会社設立のための手間と時間がかかる
個人事業主の開業は、開業届を記載して税務署に提出するだけなので、ほとんど手間はかかりません。一方で会社の開業では、定款作成や登記などの膨大な手間がかかります。詳細は後述する「設立の流れ」をご覧ください。
開業後の経理・会計作業が煩雑になる
個人事業主における複式簿記を基本とした経理・会計作業も大変ですが、会社の経理・会計作業は会社法に正しく従って行う必要があるため、さらに大変です。経理・会計がずさんな会社は社会的信用度が低下しますが、忙しい事業を展開している中で、正しく経理・会計作業を行うことは簡単ではないでしょう。
そのため多くの会社では、税理士や公認会計士に顧問料を支払って経理・会計作業を一任しています。
赤字でも法人住民税を納付しなければならない
個人で事業を行っている場合、赤字になれば税金を支払う必要はありません。一方で会社の場合、たとえ赤字決算であっても法人住民税均等割を支払わなければなりません。
税額は会社規模や事業所の場所にもよって異なりますが、たとえ赤字であっても、多くの会社は7万円前後の法人住民税均等割を支払う形となるでしょう。
会社設立する方法
サラリーマンが個人として行っている事業を会社にする(法人成りする)には、多くの手続きが必要となります。本業と副業で忙しい中、自分で会社設立手続きを進めることは現実的ではないとの理由で、専門家に会社設立の代行を依頼している例が一般的です。
以下、「株式会社」の設立を例に、手続きの流れの主要部分をピックアップしてご紹介します。
設立の流れ
会社印注文
会社設立登記には、会社の実印が必要となります。実印の作成には一定の期間がかかることから、他の手続きに先立って印鑑業者へ会社印の作成を依頼しておきます。会社設立後は銀行印や角印も必要になるため、このタイミングで必要な印鑑を全て注目しておくと良いでしょう。
基本事項の決定
定款作成・登記申請の準備として、会社の基本事項を決定しておきます。主な決定項目は次の通りです。
- 商号(会社名)
- 事業目的
- 本店所在地
- 事業年度(4月~翌年3月など)
- 資本金の額
- 出資者
- 株式譲渡の有無
- 役員
- 発行株式総数と1株あたりの株価
- 発起人に割り当てられる株式数
- 発行可能株式総数
基本事項の決定には時間がかかります。余裕のある時期から検討を始めるようにしましょう。
定款の作成・定款認証
会社の基本事項を細かくまとめた書類を定款(ていかん)と言います。「会社の憲法」とも言われる重要な書類です。記載する内容は法令で決められているため、できれば専門家の助言を仰ぎながら作成するようにしましょう。
作成した定款は、行政機関である公証役場に提出して「定款認証」を受ける形となります。法令に準拠して作成されたかどうかを、法律の専門職員に確認してもらう手続きです。
資本金払込
基本事項で決定した資本金を払い込みます。資本金は1円でも構いませんが、社会的信用を考慮し、相応の資本金を設定しておくことをおすすめします。
登記申請書類の作成
会社設立登記に必要な各種書類を作成します。商業登記法に基づいて正確に作成する必要があるので、定款と同様、できれば専門家の助言を仰ぎながら作成しましょう。
会社設立登記
会社設立登記に必要な書類を全てまとめ、法務局で登記申請を行います。法務局が受理した段階で、無事、会社設立が完了となります。
法人(会社)設立届出書の提出
会社が設立された後、税務署や都道府県税事務所、市町村役場などに法人設立届出書を提出しなければなりません。他にも、社会保険事務所や労働基準監督署、公共職業安定所(ハローワーク)などで各種手続きが必要となる場合があります。
設立にかかる費用
- 定款印紙代:40,000円(電子定款の場合は0円)
- 定款認証手数料:50,000円
- 定款の謄本代:2,000円程度
- 設立登記にかかる登録免許税:最低150,000円
株式会社の設立の場合、最低でもこれらの費用がかかります。定款を紙ベースで作成した場合には合計24~25万円ほどとなり、電子定款で作成した場合には合計20~21万円ほどとなるでしょう。
また、司法書士などの専門家に会社設立代行を依頼した場合には、その報酬として別途80,000~100,000円ほどの費用がかかります。
設立手続きに必要な書類
上記「設立の流れ」でも一部触れていますが、とりわけ「定款」と「設立登記申請書」は、会社設立において非常に重要な書類となります。作成に誤りのないよう、専門家とともに作成したほうが良い書類です。
他にも、「設立時代表取締役を選定したことを証する書面」「印鑑(改印)届出書」「払込証明書」「登録免許税の収入印紙を貼付した台紙」などを用意する必要があります。
また、会社設立の状況に応じ、「設立時取締役・設立時監査役選任および本店所在場所決議書」「発起人の同意書」「設立時監査役の本人確認証明書」「資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書」「有価証券の市場価格を証する書面」などが必要となることもあります。
会社設立が勤務先にバレないか?
副業として会社設立したことが「勤務先にバレないか」という点は、多くの方にとっての懸念事項。昨今は副業を容認する会社も増えてきたようですが、いまだに暗黙のルールで副業が禁止されている会社も少なくないため、副業で会社設立をする際には、十分に慎重になったほうが良いかもしれません。
結論から言うと、何ら対策をせずに会社設立をした場合、会社にバレてしまう可能性があります。バレたくない方は、きちんと対策を講じながら会社設立をしなければなりません。
バレる原因
会社の給与明細の様子が急変するから
副業で所得を得た場合、その所得と勤務先の給与とを合算した金額を基に住民税が計算されます。計算された住民税は、勤務先の給与から天引きされます。つまり、副業で所得を得ると、その金額が大きければ大きいほど給与明細の様子に違和感が出る、ということです。日々社員の労務管理を行っている部署の社員であれば、その違和感に気づくかもしれません。
会社を設立した情報が一般公開されるから
会社の登記情報は誰でも閲覧可能です。毎日多くの会社が設立されている中、たまたま勤務先の社員があなたの会社設立情報を目にする確率は極めて低いと思われますが、バレる可能性がゼロとは言えません。
バレずに会社設立する方法
確定申告時に「普通徴収」を選択する
設立した会社の確定申告をする際に「普通徴収」を選択します。「普通徴収」であれば、会社の給与と合算されずに自宅へ住民税の納付書が届くため、会社の給与明細に違和感は生じません。
自分は役員報酬を受け取らない
自分ではなく配偶者が役員報酬を受け取る形とすれば、勤務先社が天引きする税額に変化は生じません。ただし、配偶者が自分の扶養に入っている場合、役員報酬の金額によっては扶養から外れて税金が高くなる恐れがある点に注意が必要です。
配偶者を社長にする
配偶者を社長にすれば、登記情報に自分の名前が記載されることはありません。仮に何らかの理由で会社設立が勤務先にバレたとしても、勤務先は配偶者の副業まで禁止することはできないので、あなた自身には何のお咎めもないでしょう。