会社設立の資本金はいくらにする?ポイント、注意点、平均額と法人種類別の目安
株式会社・合同会社を設立する場合には、会社法によって定められた資本金を設定しなければなりません。
手続き上、資本金1円でも設立は可能ですが、安易に1円会社を作ると様々なデメリットを被る恐れがあるので、事業に応じた適切な資本金の設定が望まれます。
ここでは、資本金の平均額や資本金を設定する際のポイント・注意点などについて詳しく解説しています。
目次
資本金の平均額
中小企業における資本金の平均額
中小企業における資本金の平均額は300~500万円ほどです。
もちろん業種によって資本金の平均額は異なり、一般的には店舗・設備などの初期コストの高い業種、または仕入原価の高い業種ほど資本金の額は高い傾向があります。
それらも考慮の上、あえて平均額を推定すれば、おおむね300~500万円となるでしょう。
資本金額別における企業の分布
次に、資本金額別における企業の分布比率を見てみましょう。この分布比率からも、中小企業における資本金の平均額がイメージできるかもしれません。
- 300万円未満…11.3%(20万501社)
- 300万~500万円未満…32.6%(57万8,882社)
- 500万~1000万円未満…14.2%(25万3,148社)
- 1000万~3000万円未満…31.3%(55万5,646社)
- 3000万~5000万円未満…4.1%(7万2,933社)
- 5000万~1億円未満…2.9%(5万2,126社)
- 1億~3億円未満…1.0%(1万7,674社)
- 3億~10億円未満…0.4%(7,337社)
- 10億~50億円未満…0.2%(3,600社)
- 50億円以上…0.1%(2,319社)
参照:「令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計」
【参考】かつては「最低資本金制度」があった
2023年4月時点で、株式会社と合同会社は資本金1円以上で設立可能です。また、合名会社と合資会社には資本金制度がありません。
ただし、かつての会社設立には最低資本金制度と呼ばれる規定が存在しました(2005年の商法改正により廃止)。
最低資本金制度とは、会社設立に際して事業に見合った資本金を用意する必要がある、とする制度です。1990年、債権者保護の観点から最低資本金制度が設けられました。
当時の規定によると、株式会社の最低資本金は1000万円で、有限会社の最低資本金は300万円(※)。
新たに株式会社・有限会社を設立する場合には、それぞれ1000万円以上・300万円以上の資本金を用意することが要件とされました。
一方でそれ以前に存在していた株式会社・有限会社が最低資本金を満たしていない場合には、猶予期間内に最低資本金を満たすよう求められました。
猶予期間内に最低資本金を満たせなかった場合には、別の会社形態へ組織変更するか、または会社を解散することとなりました。
しかし、この最低資本金制度は企業の妨げとなり経済を停滞させかねないなどの理由により、2005年の会社法改正により廃止になりました。
以後、資本金1円でも株式会社の設立登記ができることとなり2023年に至っています。
※有限会社:2023年時点で新たに有限会社を設立できません。
会社種類別の資本金
2023年4月時点で、新規で会社設立できる会社の種類には「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類があります。
それぞれの種類における資本金の規定は次の通りです。
- 株式会社…1円以上
- 合同会社…1円以上
- 合資会社…規定なし
- 合名会社…規定なし
株式会社と合同会社を設立する場合は、資本金1円以上を用意する必要があります。
一方、合資会社と合名会社を設立する場合は、法律に資本金の規定がないため、理論上は資本金0円でも設立が可能です。
なお、合資会社や合名会社には無限責任(※)を伴うなどの理由から設立が避けられる傾向があり、昨今では、有限責任を前提とする株式会社・合同会社の設立件数のほうが圧倒的に多くなっています。
※無限責任…会社が倒産した際などに、会社の債権者に対して負債総額の全額を返済する責任のこと。
資本金の目的
資本金とは、会社の設立準備や設立、設立後の初期における運転資金などに充てるための元手資金を言います。
株式会社の場合、理論上は第三者の投資家(株主)から広く出資を募ることで資本金を集められます。
まだ社会的信用が確立・定着していない多くのスタートアップ株式会社では、経営者本人が株主として自己資金を投じて資本金を用意する例が一般的です。
なお、資本金は返済義務のない資金でなければならないため、金融機関からの借入金を資本金に充てることはできません。
逆に言えば、資本金の多い会社は、返済義務のない資金を多く持つということでもあります。
そのため、資本金を多く持つ会社は経営体力があるとして社会的信用力が高まり、新規取引や銀行融資で有利になる傾向があります。
資本金に似た「資本剰余金」の目的
資本剰余金とは、会社設立の際に株主・社員などから募った出資金のうち、資本金に含めなかった部分を言います。
返済義務のない元手資金のうち資本金以外の部分、と理解すれば良いでしょう。
資本剰余金は、その性質により「資本準備金」と「その他資本剰余金」に分かれます。
資本準備金とは
資本準備金とは、将来発生する可能性のある支出・損失・債権者からの請求などに備え、積み立てる形で保有するお金です。
資本準備金の上限金額は資本金額の1/2未満とされています。
その他資本剰余金とは
その他資本剰余金とは、資本金減少時や利益が不十分だった際に、株主への配当などに充てるための原資です。
【参考】自己資本比率とは
資本金に関連し、自己資本比率という言葉をよく目にすることでしょう。
自己資本比率とは、総資本(※)のうち純資産(新株予約権を除く)が占める割合です。自己資本比率が高ければ高いほど、他人資本(負債)の率が低くなります。
自己資本利率が高ければ将来返済する借金の率も低くなるため、その分、会社の健全性が高いと評価されます。
なお、一般的に自己資本比率が30%超であれば会社の財務体質はおおむね健全と言われますが、必ずしもそうというわけではありません。
それは業種により自己資本比率の特徴が異なるため、自己資本比率のみを材料に会社の財務体質の健全性を判断できないからです。
例えば、出版業の自己資本比率は平均70%程度なので、30%超でも健全性が低いと判断されることがあります。
逆に、電機業の自己資本比率は平均20%程度なので、30%以下であっても健全性は高いと判断されることがあります。
※総資本…貸借対照表における「負債の部」と「純資産の部」の合計額
資本金の金額を決める時のポイント
資本金の金額を決める際の大事なポイントを見てみましょう。
資本金を運転資金として使う期間を想定する
会社設立後、どの程度の期間にわたって資本金を運転資金として使うかを、よく検討してみましょう。
多くの取引先を確保した状態で会社設立する場合は別ですが、大半の会社は、設立から数か月は売上が厳しい状況となります。
この売上が厳しい状況の中でも十分に企業活動ができる金額を、資本金として用意したほうが良いでしょう。
一般的に「会社設立から3か月間は売上ゼロでも事業を続けられる金額」を資本金とするよう推奨されています。
業種・業界・会社規模などによりその金額は大きく異なるため、自社の特徴を踏まえながら慎重に資本金額を見積もる必要があります。
資本金が多いほど取引先の信用も高くなることを理解する
資本金の金額が多ければ多いほど取引先の信用につながり、結果として事業も順調に推移する可能性が高まることを理解しましょう。
資本金は、返済の必要がない自己資金です。取引先から見れば、資本金を多く持っている会社ほど売掛金の回収リスクなどが低下することになるため、資本金の少ない会社に比べると、より安心して取引できます。
融資する銀行から見ても貸し倒れリスクが低下することになるため、資本金の少ない会社に比べ、融資しやすくなるでしょう。
「会社設立から3か月間は売上ゼロでも事業を続けられる金額」を資本金として用意すれば、大きな問題は生じにくいと考えられますが、可能な限り資本金を上乗せしておくに越したことはありません。
消費税・法人住民税などの負担も考慮する
資本金1000万円以上で会社を設立した場合、設立1期目は消費税が免除されます。また、決算時における法人住民税も優遇されます。
資本金が多ければ多いほど社会的信用を得やすいことは確かですが、スタートラインで身の丈を超えた資本金を設定した場合、税制の優遇措置を放棄することにもなりかねません。
比較的小規模での事業からスタートする場合には、高すぎる資本金を設定することも考えものです。
社会的信用を得るため資本金を大きくしたい場合には、事業を軌道に乗せた後、変更登記で資本金を増額するという方法もあります。
資本金の金額を決める時の注意点
資本金の金額を決める際の主な注意点を確認しておきましょう。
許認可取得に資本金の条件がないかどうかを確認する
許認可が必要な一部の業種において、資本金などの金額の条件を設定されている場合があります。
そのような業種においては、設定された金額の資本金などを用意しない場合、会社設立できないので注意が必要です。
例えば人材派遣会社を設立する場合、資本金・資本剰余金などの純資産の合計額を「2000万円以上、かつ1500万円は現預金とする」という条件があります。
また、建設会社を設立する場合、一般建設業は「純資産500万円以上」で特定建設業は「資本金2000万円以上、かつ純資産4000万円以上」という条件があります。
旅行会社設立にも、会社の種類によって資本金の条件が設けられています。
許認可が必要な業種で会社設立する場合には、資本金などの条件の有無を確認していきましょう。
安易に1円会社を設立しない
株式会社も合同会社も資本金1円で設立できますが、話題づくりなどの目的以外で、安易に1円会社を設立しないようご注意ください。
1円会社を設立した際の主なデメリットを確認してみましょう。
会社設立してから短期間で資金不足になる可能性がある
資本金は、会社設立から事業が軌道に乗るまでの運転資金です。
そのため、資本金をわずかしか用意していない場合には、仕入れや家賃、光熱費などの支払いだけで、ただちに債務超過に陥る可能性があります。
取引先の開拓に苦労する可能性がある
取引先から見れば、自己資金の少ない会社は回収リスクの高い会社となります。そのため、例えば資本金の少ない会社が原材料を注文したとしても、注文を断られることもあるでしょう。
逆に、仮に資本金の少ない会社が魅力的な商品を開発したとしても、安定的に商品が供給されないリスクもあることから、相手企業に商品購入を見送られる可能性があります。
1円会社の中にも有望な会社はたくさんありますが、取引先の開拓において苦労することが多いかもしれません。
金融機関からの融資を受けにくくなる可能性がある
1円会社は、金融機関からの融資を受けにくくなることがあります。
資本金の少ない会社は運転資金が少ないことになるため、金融機関から見れば回収リスクが高いと判断されます。
融資の審査に合格するためには、資本金1円というマイナス面を大きく超える要素が必要となるでしょう。
なお、金融機関の融資商品の中には、融資限度額を資本金の2倍までと設定しているものもあります。
資本金払込みの流れ
適切な資本金を設定したら、実際に資本金を会社へ払い込む手続きが必要です。資本金払い込みの流れを確認しておきましょう。
1.発起人名義の金融機関口座を用意する
最初に発起人名義の金融機関口座を用意します。発起人とは、資本金を払込む人を言います。
資本金の払い込みは会社設立前に行う形となるため、最初から法人名義の口座へ資本金を払い込むことはできません。
いったん発起人名義の口座に資本金を払い込み、会社設立後、法人名義の口座へ資本金を移動させる流れとなります。
なお、資本金の払い込み先となる金融機関は、実店舗のないネット専用銀行でも構いません。
2.口座へ資本金を振り込む
発起人名義の金融機関口座に資本金を振り込みます。
各発起人が払い込んだ金額を明確にするため、預金ではなく振り込みの形で口座へ入金しましょう。
3.通帳のコピーをとる
資本金の払い込みが完了したら、通帳のコピーをとります。通帳のコピーは、発起人が資本金を払い込んだことを証明する大事な書類となります。
払い込みの流れが印字されている面のコピーの他、名義・口座番号・銀行印のあるページ、および通帳の表紙のコピーをとります。
4.払込証明書を作る
代表取締役となる人が払込証明書を作成します。払込証明書とは、各発起人が資本金を払い込んだ事実を証明するための書類です。
払込証明書には、金額や株数、1株あたりの払込金額など、記載が必須となっている項目があり、記載漏れがあると会社設立がスムーズに進みません。
専門家に確認しながら作成するようおすすめします。
5.払込証明書と通帳コピーをまとめる
作成した払込証明書を表紙とし、上から順に通帳の表紙のコピー、名義・口座番号・銀行印のあるページのコピー、払い込みの流れが印字されている面のコピーを重ね、ホチキスで左端の2か所を留めて冊子状にまとめます。また、開いた冊子の中央部分に代表社印で割印を押します。
【まとめ】事業内容・事業規模に合った適切な資本金の設定を
資本金の平均額、資本金を設定する際のポイント、1円会社設立の注意点、資本金払い込みの流れなどについて解説しました。
資本金が少なくても会社設立は可能ですが、あまり少ない資本金で会社設立すると、取引先の開拓や融資などに苦労し、順調に事業を展開できなくなる恐れがあります。
大きな夢を描いて会社設立したにもかかわらず、資本金の額が理由で早々の倒産を余儀なくされては本末転倒です。自社の事業内容や事業規模に照らし、適切に資本金を設定していきましょう。