会社設立時の事業年度の決め方とは?
事業年度とは、会社の決算の区切りとなる一定期間のこと。法令では、会社は自由に事業年度を設定できることとなっていますが、事業の性質などを考慮し、なるべく有利な期間を事業年度にするようおすすめします。
ここでは、事業年度を決定する際のポイントを中心に解説しています。
目次
事業年度とは決算書類を作成する一定の期間のこと
事業年度とは、会社の決算書類の作成対象となる一定期間のこと。会社法と法人税法により、やや事業年度の考え方が異なります。
会社法における事業年度
会社法(会社計算規則第59条2)では、前事業年度末日の翌日から1年以内の期間を事業年度として設定できる、と規定されています。
新しく会社を設立した場合には、設立日から1年以内の期間で設定します。
一般的に、事業年度は1年間で設定されていますが、会社法の定めでは1年間という決まりはなく、あくまでも「1年以内」。6か月や9か月で事業年度を設定することも可能です。
法人税法における事業年度
法人税法(法人税法第13条)では、原則として定款に定めた会計期間を事業年度としています。定款に会計期間を定めていない場合には、改めて会計期間を定めて税務署長に届け出るか、または税務署長が指定した会計期間に従って事業年度とします。
いずれの場合でも、事業年度は最長1年ごとに区切った期間となります。
決算期とは事業年度の最後の月のこと
事業年度に関連し、「決算期」という重要な言葉が登場します。
決算期とは、事業年度の最後の月のこと。その事業年度の決算報告書が作成される月でもあります。決算報告書に基づき確定申告書類を作成・提出の上、法人税等を納税する流れとなります。
事業年度を決めるポイント6つ
会社の事業年度を決める際の6つのポイントを見てみましょう。
1年目の事業年度末を設立日からなるべく遠くに設定する
会社設立1年目の事業年度末は、なるべく設立日から遠くの日に設定しましょう。
法令では、設立日から1年以内ならどこに設定しても構わない決まりとなっています。3か月後に設定しても1年後に設定しても構いません。
しかしながら会社設立初年度は、事業が軌道に乗るまでの間、かなり忙しくなる可能性があります。会社の運営で多忙を極めている中、決算の処理で忙しさが加わっては、会社運営自体が片手間になりかねません。
少しでも運営が安定化してから決算の処理に取り掛かれるよう、会社設立1年目の事業年度末は、なるべく設立日から遠くの日に設定したほうが無難です。
資金繰りのタイミングを考慮して事業年度を決める
事業年度が終了した2か月後には、法人税などの納税を行わなければなりません。納税のためのまとまった資金を用意しておく必要がある時期ですが、この時期と事業の閑散期が重なってしまうと、資金繰りがショートしてしまう恐れがあるので注意が必要です。
業種によっては繁忙期と閑散期の差が著しい場合もありますが、閑散期であっても、従業員への給料支払いや借入金の返済、社会保険料の納付などが待ってくれるわけではありません。
そのため、繁忙期・閑散期の著しい業種においては、一時的に資金繰りがタイトになる時期が訪れます。この時期に納税のタイミングをぶつけないよう事業年度を検討していきましょう。
消費税の免税期間が長くなるように事業年度を設定する
会社には課税売上高を基準にした消費税の納税義務がありますが、設立したばかりの会社については、設立から事業年度2期目までは消費税の免税期間となります(適用には条件があります)。
ここで改めて注意したい点が1つ。消費税の免税期間は「2年間」ではなく、「事業年度2期」という点です。
もし、4月に会社を設立して翌年3月を事業年度終了とした場合、1期目の12か月と2期目の12か月を合わせて合計24か月が免税期間となります。
一方で、もし4月に会社を設立して同年6か月に事業年度終了とした場合、1期目の3か月と2期目の12か月を合わせて合計15か月しか免税期間になりません。
消費税免税の恩恵を最大限に享受するためには、なるべく1期目の授業年度を長く設定することが有効です。
なお、消費税の免税期間は各種の条件によって異なるため、詳しくは会社設立の際にお世話になる税理士等へ相談してみましょう。
繁忙期と決算期がかぶらないようにする
先に、閑散期と納税のタイミングがかぶらないよう事業年度を設定する、と説明しましたが、繁忙期と決算期がかぶらないように事業年度を設定することも大事です。
理由は、単純に仕事の忙しさと決算の忙しさが重なり、業務負担が増えるからです。
ただし、中にはあえて繁忙期と決算期を重ねる経営者も少なくありません。一時期に業務負担を増やすことで、従業員のテンションや仕事へのモチベーションが上がり、結果として業績も上がることがあるからです。
原則論としては繁忙期と決算期がかぶらないよう事業年度を設定しますが、会社方針等を踏まえ、適宜事業年度を検討してみましょう。
法人税等の納付時期から事業年度を考える
法人税や消費税は、中間申告による納税や予定納税などの制度を利用し、複数回に分けて納税することが通常です(設立初年度は中間納付の対象外)。
納税タイミングを分散し、一時期に負担が集中しないようにするためです。
ただし、もし予想以上に経営が順調で大きく売上が上がると、法人税や消費税の納税額も想定以上に大きくなりかねません。逆に、先に説明したように、閑散期でキャッシュが少ない時期に重なると、資金繰りで慌てる可能性もあります。
あらかじめ売上の推移を予測することは困難である以上、例えばボーナスの支給時期と法人税等の納付時期をズラすなど、お金の出入りを考慮したタイミングで事業年度を設定するようおすすめします。
役員報酬の決定時期を考慮して事業年度を考える
役員報酬とは、社長や取締役、監査役などに支給する報酬のこと。法令では、「期首から3か月以内に、その年度の役員報酬を決めなければならない」と規定されています。
一度役員報酬の額を決めたら、同じ事業年度内で金額を変更することはできません。
ここで注目したいポイントが、役員報酬と業績の関連。もし、その事業年度の業績に対して役員報酬を過大に設定した場合には、決算は赤字になる可能性があるでしょう。
逆に、もし役員報酬を過少に設定した場合には、利益が上がって法人税が高くなるかもしれません。すなわち、役員報酬はその事業年度の業績を予想し、絶妙な金額で設定することが大事ということです。
実際に数か月後の業績の着地を正確に予測することは不可能ですが、公共事業に関連する業種(土木建設会社など)であれば、毎年3月の時点でその事業年度の売上を予想することも不可能ではありません。
業績予想が可能な業種の場合、役員報酬の決定時期(期首から3か月以内)を考慮して事業年度を設定すれば、節税の最適化を目指すことができます。
【まとめ】自社にとって有利な事業年度をよく検討することが大事
会社の事業年度は、会社の意思で自由に設定できます。
自由に設定できるからこそ、中には事業年度をよく検討せず、多くの会社と同様に4月から翌年3月に設定する会社も見られますが、事業や市場の性質によっては別の事業年度を設定したほうが有利になる場合もある点にご注意ください。
とりわけ資金繰りや税金のタイミングを重視し、会社にとって適切な事業年度を検討していきましょう。